中継チームの仕事(後編)

【4】 当日の運用

さて、事前の機材検討にちょっと時間をかけ過ぎてしまいましたので、駆け足で当日の運用を振り返ります(汗)。

現場にトラブルは付き物とよく言いますが、大小問わずトラブルの無い現場は自分の経験上でも皆無です。どんなに準備に時間をかけても自分のコントロールの及ばないところに潜在的な問題が潜んでいたりします。

まず、本番当日最初にぶち当たった問題の一つがインターネット接続性の問題でした。要は、必要なアップロード・スピードが出てくれないのです。事前の現場調査時の測定では 4 Mbps 程度コンスタントに出ていたものが、当日は予想以上に不安定な状況でした。

そのため、非常に残念ながらプレコンサートの中継が実現出来ず、その間ずっと、安定的に配信出来るエンコーディングの設定を探っていました。この間の精神的なプレッシャーというのは生中継を経験されたことがある方ならお分かりでしょうが、非常に厳しいものです(笑)。

今回、インターネット接続にはとあるキャリアの LTE 回線を使用しましたが、基地局からの電波の受信状況自体には全く問題がありませんでした。考えられる原因としては、来場されたお客様との “帯域の取り合い” になってしまっていた可能性はあります。商用配信の場合、事前に NTT 等のキャリアの光ファイバーを会場に引き込み、より確実なインターネットとの接続性確保を目指すところではありますが、今回は会場側の都合もあり、それは叶いませんでした。

この場合、私に出来ることは、音質・画質をなるべく落とさずにいかに配信ビットレートを落とせるか、ということになります。この辺りも知識、勘、経験が最大限に活きてきます。

結果的に、映像と音声の配信品質を多少犠牲にせざるを得なくなりましたが、メインのプログラムの開始前になんとか安定的に配信出来る状態に持って行くことが出来ました。

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華麗にカメラを操るカヲルさん

華麗にカメラを操るカヲルさん

次の問題はやはり初めて実戦に投入するワイヤレス映像伝送の部分でした。実際にカメラをステージ上に設置してみると、やはり問題が発生しました。

実は、リハーサル中にカメラを設置した際には映像は中継ベースまで飛んで来ていたのです。しかし、いざ本番となると 2 台とも映像が飛んで来ない!もうどうしようもないので、残りの 2 台のカメラで乗り切るしかありませんでした。

一曲目のブラームスが終わり、インターミッションに入ったところでカヲルさんにステージ上のカメラを見て来てもらいました。時間に制約がある中きちんとトラブルシューティング出来ていないものの、ふと気付くと一つのヒントが得られました。1 台のカメラの映像伝送を止めている時にはもう 1 台の映像は特に途切れることなく伝送されて来ているじゃないか、と。そこで、後半は指揮者監視カメラだけ残してもう 1 台の使用を止めることにしました。

その対処は一応、適正だったようです。後半は概ね問題無く最後まで指揮者の豊かな表情を捉えることに成功しました。

視聴者の皆様のリアルタイムな反応を見ると、こうして苦労がありながらも指揮者カメラを用意して正解であったと確信しました。今後も “求められた画” をお届けするために様々な技術的チャレンジをして行くぞと心に誓った瞬間でした。

 ◇  ◇  ◇

という訳で、中継の裏側ではこのようにあらゆる事柄を検討し、種々の問題を解決してようやく皆様にお届け出来るところまで漕ぎ着けています。

これを後押ししているのは、中継を期待してくださっている視聴者の皆様の存在もさることながら、ここに集まった演奏家の熱い思いを余すところなく発信したい!という我々中継チーム自身の強い思いに他なりません。中継チームも演奏家に負けず劣らず燃えているのです。

今回の演奏会中継において少しでもその思いが形となって皆様のもとにお届け出来ていたならば、これ以上嬉しいことはありません。

ALAPHO 中継チーム 代表


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